Report:2022年8月23日 TOYONO「acústico de verão」
2022年8月23日 TOYONO「acústico de verão」
アコースティック・サマー・スペシャルライブ・レポート
|
(音楽評論家・佐藤英輔) |
2018年10月よりスタートしたラジオ番組「TOYONO moda brasil」(調布エフエム・ FM千里)200回放送を記念する錚々たる豪華メンバーによるスペシャル大編成でのライブ。TOYONOの人気楽曲にストリングスアレンジを加えた"真夏のアコースティック・スペシャルライブ"。ブラジル音楽のエレガントで豊かなハーモニーの魅力、しなやかで心地良いグルーヴ感を、天性の魅力をもつTOYONOの歌声と共に。 |
出演:TOYONO vocal 越田太郎丸guitar 柏木広樹cello 榊原大piano maiko violin クリス・シルバースタインbass 岡部洋一percussion トークゲスト:メストリ・カルー鈴木 ■日時:2022年8月23日(火) ■会場:JZ brat Sound of Tokyo |
■<ブラジル音楽のかけがえのない機微を自らのパーソナリティやヴォーカル個性とともに花開かせよう>としているTOYONOの行き方 |
様々な見地からブラジル音楽にアプローチするラジオ番組「TOYONO moda brasil」の放送200回を祝う公演が、渋谷J’Z Bratで2022年8月23日に行われた。 風情と華あり。白とネイビーのドレスを身につけたTOYONOをサポートするのは、普段から彼女とライヴの場をシェアしていて今回の音楽ディレクションも担うギターの越田太郎丸(珍しく、この日は1曲でエレクトリック・ギターも弾いた)、チェロの柏木広樹、ピアノの榊原大、ヴァイオリンのmaiko、ベースのクリス・シルバースタイン、パーカッションの岡部洋一という、気心の知れた奏者たちだ。そんな面々によるコンサートは、<acústico de verão アコースティック・サマー・スペシャルライブ>と副題されている。 まず、イヴァン・リンスとジャヴァンというMPB(Música Popular Brasileira、英米ポップ音楽と横並びのブラジリアン・ポップ表現)を代表するメロディ・メイカーの曲を伸びやかに披露する。悠々、まさに自然体。<ブラジル音楽のかけがえのない機微を自らのパーソナリティやヴォーカル個性とともに花開かせよう>としているTOYONOの行き方と、<ブラジル音楽が抱えてきた天衣無縫さと外の世界も知る自らのメロディ性を巧みに同化させる>という作業をしてきたリンスたちの回路は親和する部分がある。 続く、ノエル・ホーザとピアニストのヴァヂコが作った古曲「ヴィラの魅力」はストリングの二人とパーカッションの岡部が退き、より隙間を持つ形で披露される。不世出の詩人であったノエル・ホーザによる、街の情景とともにサンバは万人のものと綴られる歌詞がTOYONOから発せられと、場は揺れて、渋谷はブラジルへとワープする。 その後、再びフルの編成に戻ると一番好きな作曲家であると紹介されたエドゥ・ロボの曲「ネゴ・マルーコ」や、マイケル・ジャクソンの「ロック・ウィズ・ユー」なども歌われる。魅惑的な透明感を抱えたTOYONOのヴァージョンにより、マイケルの1980年全米1位曲が持つ眩さに改めて感じ入った人も少なくなかったのではないだろうか。 |
■セカンド・セットのオープナーは、まさに音楽の天使が舞うような滋味に満ちたオリジナルの「トレス・マリアス」 |
公演は、2部制にて。休憩時のアタマには、件のラジオ番組の相手役を務めるメストリ・カルー鈴木とTOYONOとの軽妙なトークがなされる。二人はリオきってのサンバ歌手である故カルトーラのアルバム群にも言及し(その際、ライヴ時にはステージの模様が映し出されるヴィジョンには御大のアルバム・カヴァーが映し出される。用意万端ですね)、なんかブラジル音楽愛好者たちの夕べという気分は高まる。 セカンド・セットのオープナーは、オリジナルの「トレス・マリアス」。個人的には渡辺貞夫の名曲「マイ・ディア・ライフ」に匹敵するような好曲だと思っていて、まさに音楽の天使が舞うような滋味に満ちた好曲というしかない。そして、その後は彼女がよく歌っているトニーニョ・オルタ作の「カント・ヂ・デサレント失望の歌」や、日系ブラジル人歌手のカルロス・トシキ/1986オメガトライブのJポップ・ヒット曲「君は1000パーセント」が歌われた。ギターとヴァイオリンの伴奏だけで披露された後者は無理なくTOYONO/ブラジル味が加えられており、会場はしっとり華やぐ。さらにはトニーニョ・オルタの「ドゥランゴ・キッズ」、こんな技ありの紐解き方があったなんてと唸らせるブラジリアン大スタンダード「イパネマの娘」も、闊達に披露された。 |
■ブラジル音楽への愛着、コンテンポラリーな雫も抱える潤いあるヴォーカル表現 |
ブラジル音楽への愛着や確かな見識を糧に、コンテンポラリーな雫も抱える潤いある自らのヴォーカル表現を両手を広げて送り出す。それは、これまで彼女のアルバムやライヴに触れてのぼくの所感だが、この晩はより瀟酒さやしなやかさを増して押し出されていたという感想を持つ。そして、それに大きく貢献していたのが、柏木とmaikoによる弦楽器のアンサブル(時にはソロも披露される)だろう。その弦音群はかなり雄弁にして、効果的。その巧みな重なりは2本以上の厚みと潤いを聞き手に与え、TOYONOの豊穣さや成熟、さらには今回のショウのスペシャルさを出すのを助けていた。 アンコール最後の曲は、ジョアン・セルジオのサンバ曲「ウ・アマニャン/明日」。なんと岡部が叩くタンボリン音だけで伴奏され、まずTOYONOと越田~歌もお上手だな~が歌声を重ねていき、途中から他の奏者たちも歌を加える。なんか、そのクローザーのあり方は、面々が歌やブラジル音楽を鍵に繋がり、それらを愛であっていることを直截に伝える。特別なコンサートの心憎い終わり方だと、ぼくは大きく頷いた。(佐藤英輔) |
<セットリスト> |
stage photo : Shin Kiwaki additional photo : Nobuyoshi Ippongi TOYONO hair&make : Nobuyoshi Ippongi special thanks : Gen Kato Nana Okamura ©2022 TOYONO MODERNO. All Rights Reserved. |