TOYONO MODERNO

ジャパニーズ・ブラジリアンミュージックのミューズ TOYONO。6年振りのオリジナルアルバムでビクターエンタテインメントよりメジャーデビュー。「黒髪のサンバ」 2016.9.21リリース。2018.10.7よりラジオ番組「TOYONO moda brasil」スタート!

special

 

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2016年11月7日  TOYONO「黒髪のサンバ」リリース記念ライブ・レポート
(ライター・手塚美和)
豪華メンバーによるさながら「リオ・トーキョー・リトルオルケストラ」
TOYONOの歌声と音楽世界を存分に味わえる記念すべき一夜。
出演:TOYONO vocal
竹中俊二guitar&sound produce渡辺剛piano&keyboards 岡雄三bass 宮川剛drums
クラッシャー木村violin 柏木広樹cello
ゲスト:グスタヴォ・アナクレートsax&flute 石川智percussion
■日時:2016年11月7日(月) ■会場:JZ brat Sound of Tokyo
http://www.jzbrat.com/

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ペリカーノ・ヘヴン」そして「黒髪のサンバ」への結実

「このメンバーでバンドを組もうと思っています」

と、TOYONOが宣言したのは、2014年の2月、青山のプラッサオンゼでのライブの時だった。TOYONOの前作のサウンドプロデュースを手掛ける、ギタリストでありアレンジャーの竹中俊二、岡雄三(b)、渡辺剛(pf,key)、宮川剛(ds)という面々は、一人一人の経歴を書いていたらキリがないほど、ロック、ジャズ、ファンク、ブルーズ、ポップス、ラテン、ブラジルと、あらゆるジャンルの垣根を軽々と飛び越えながら活躍している強力なミュージシャンたちだ。それまでも共演を重ねてきたメンバーに、最終的に岡が加入することで、改めてパーマネントなバンドペリカーノ・ヘヴンとして活動しようという決意に至ったようだ。きっと、その頃からTOYONOの中では、このメンバーでしか演奏できない音楽、作品のサウンドビジョンが芽生えていたのだろう。そのビジョンが

今回、初めてのメジャーレーベルからのリリースとなった『黒髪のサンバ』というアルバムに結実していったのだと思う。

 2016117日、JZ Brat Sound of Tokyoで行われた『黒髪のサンバ』リリース記念ライブは、アルバムを再現するだけにとどまらない、TOYONOの音楽の集大成といってもいい、素晴らしいライブだった。

 この日はペリカーノ・ヘヴンのメンバーに、柏木広樹(cello)、クラッシャー木村(vl)、グスターヴォ・アナクレート(sax,fl)、そして石川智(perc)という豪華なメンバーが加わった総勢9人。彼ら一同が同じステージに立っているという絵図だけでも相当、壮観だ。

 

 

エリスとセザール、二人のレジェンドへ二重のリスペクト、「サンバ・ドブラード」で幕開け

それまでのライブでもすっかり定番となったジャヴァンの「サンバ・ドブラード」で幕を開ける。この曲は、今は亡きブラジル伝説の歌姫エリス・レジーナの代表曲。ブラジル音楽史上歴史的名演と名高い1974年モントルージャズフェスティバルでの印象が強い曲だが、TOYONOが歌うのは、エリスを公私共に支えた夫でピアニストのセザール・カマルゴ・マリアーノのインストゥルメンタルアレンジに、敢えてTOYONOが歌を乗せたモダンな物。エリス亡き後、セザール自身がエリス関連のプロジェクトにほぼ関らず没後20年に新たにアレンジした施した意味はとても大きいと想像する。そして、エリスとセザール、二人のレジェンドへ二重のリスペクトを込められたTOYONOの選曲は、リリースライブの幕開けに相応しいと感じた。
イントロの渡辺のジャジーなピアノに絡みつくように入ってくる竹中のアコースティックギター。ピアノもギターも、JZの響きとの相性がすごくいい。宮川のどっしりと安定しつつも歌に寄り添う繊細なドラムに、岡の太く唸るベースライン、更に、この日はブラジルのリズムに精通した石川智のパーカッションが加わるという最強のリズムセクション。グスターヴォのファンキーでありながら品格のあるサックスに、柏木と木村の弦がゴージャスに溶けあってゆく。改めて、すごいメンバーを集めたものだと、1曲目にして感嘆。

 

7拍子のサンバ「ペリカーノ・ヘヴン」、「デサフィナード」、シコ・ピニエイロ「ポポー」、
スカの「マシュ・ケ・ナダ」、AKAKAGE「ブラジリアン・カラーズ」、
トニーニョ・オルタ「ドゥランゴ・キッズ」

TOYONO作詞竹中作曲の世界でも珍しい7拍子のサンバ「ペリカーノ・ヘヴン」、トム・ジョビンの「デサフィナード」、ボブ・ミンツァーからの招聘も有名なブラジルの新星シコ・ピニエイロの難曲「ポポー」と、彼女のライブで人気の曲が続いたところで、アルバムの中から「マシュ・ケ・ナダ」。ブラジル音楽を意識して聴いたことがない日本人でも、一度は耳にしたことがあるであろうこの曲を、スカのリズムにアレンジするとは!これがもう、めちゃくちゃハマるのである。6曲目はDJ、音楽プロデューサーの伊藤陽一郎作曲TOYONO作詞の「ブラジリアン・カラーズ」。伊藤のプロジェクト「AKAKAGE」でヒットしたエレクトロダンスチューンをソリッドにリアレンジしたもので、TOYONOのポル語のリズム感の良さが際立つ。

続いて先日、来日連続公演を大成功させたブラジルの巨匠ギタリスト、トニーニョ・オルタの「ドゥランゴ・キッズ」。オルタ初期アルバムのタイトル曲でありながら、あまり演奏される事のない隠れた名曲をライブで聴ける事も喜びであった。

 

ここで1stが終了。ここまでで前半とは。相当、濃い!

 

 

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竹中俊二guitar

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渡辺剛piano,keyboards

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岡雄三bass

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宮川剛drums

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TOYONOの日本語の美しさには、ハッとさせられる瞬間が多々、ある。「君は1000%」
ジョビン「おいしい水」、世界でも類をみない4分の6にアレンジされたマイケル・ジャクソン「Rock with you

2ndステージはTOYONOと竹中のデュオでトム・ジョビンの「おいしい水」でスタート。タック&パティを彷彿とさせるニュアンスに、この曲はバンドでなくデュオで演るべき、と提案したのは柏木なのだという。その柏木が加わり「君は1000%」。40代以降の世代からはいつも歓声が上がる、1986オメガトライブの1986年の大ヒット曲だ。ライブではポルトガル語歌詞で歌っていたが、『黒髪のサンバ』には日本語歌詞で収録されていて驚かされたのだが、この日は日本語で。この曲に限らず、ポルトガル語で歌う機会が多いせいか、TOYONOの日本語の美しさには、ハッとさせられる瞬間が多々、ある。歌詞がはっきり聞き取れる発音の良さと、スーッと耳から心に届いてくるイノセントな響きがやたらと心地よいのだ。

TOYONOでしか聴けない、世界でも類をみない4分の6にアレンジされたマイケル・ジャクソンの「Rock with you」も、アルバム収録された弦アレンジがレコーディングメンバーで再現され、更に新鮮な表情で楽しませてくれた。熱を持ったエレガンスとでも呼びたくなる木村のセクシーなヴァイオリンソロに鳥肌!

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クラッシャー木村violin

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柏木広樹cello

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 石川智percussion

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グスターヴォ・アナクレート
sax&flute

 

 

精鋭9人、一人一人の絶妙な引き算から生まれるバランス感覚、タイム感。そこから生まれるグルーヴ。
アルトゥール・ヴェロカイ「Na boca do sol」

そして、個人的には、このライブの目玉だったと感じている「ナ・ボッカ・ド・ソウ」。このライブの為に用意した初披露曲とのこと。アメリカのソウルミュージックに大きな影響を受けたアルトゥール・ヴェロカイの70年代の曲だ。アーシーでソウルフルな曲は、ゴージャスな編成がよく似合う。しかし、ゴージャス故に、ミュージシャンの質、組み合わせによっては、オーディエンスにとってtoo muchになりがちなのだけれど、この精鋭9人の演奏は、けしてオーヴァーファンクにならないところがさすがだった。一人一人の絶妙な引き算から生まれるバランス感覚、タイム感。そこから生まれるグルーヴは最高に気持ちよかった。アルバム未収録の初演曲を印象的に設定してくる潔さは、自身のベクトル宣言とも取れ、TOYONOが常にシーンを牽引する存在であり続けるアーティストとしての本領発揮とも言えるだろう。

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「サウヴァドール」ブラジル民間信仰カンドンブレのリズムAgueréアゲレー”、「ファンキ・カヴァキーニョ」

そのテンションのまま「サウヴァドール」へ。TOYONO自身の作詞作曲の本作。一緒に歌いたくなるキャッチ-なメロディ、良質なAOR的なコード進行、竹中のポップスセンスあふれるアレンジの素晴らしさにキュンとさせられてしまう1曲だ。TOYONOの師匠でもある、世界的パンデイロ奏者、マルコス・スザーノ(アルバムにも全面的に参加)のアイディアで、ブラジルのディープな民間信仰カンドンブレのリズムAgueréアゲレー”がベースになっているところがTOYONOならではの味だろう。そこからなだれこむ「ファンキ・カヴァキーニョ」。ブラジルで生きる或る女の切なさ、やるせなさを歌ったTOYONOらしいストーリー展開のポル語歌詞の曲で盛り上がりは最高潮に。岡、宮川の、クールなプレイから繰り出されるぶ厚く、深く、凄みまで感じさせるソロに圧倒される。

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「トレス・マリアス・ドイス」TOYONOにとっても彼女のファンにとっても思い入れの強い、重要な1曲、
そして
21世紀の「イパネマの娘」

鳴りやまない拍手の中、アンコールは美しきスローナンバー、同じくTOYONO作詞竹中作曲の「トレス・マリアス・ドイス」。オリオン座の三ツ星を、ブラジルでは三人のマリア(=トレス・マリアス)と呼ぶ事をテーマにしたこの曲は、アルバムには日本語ヴァージョン、ポルトガル語ヴァージョン両方が収録されているほど、TOYONOにとっても彼女のファンにとっても思い入れの強い、重要な1曲だ。この日は不在だったが、ピアニスト光田健一の編曲の美しさにはため息がもれる。ピアノと弦の溶け合った香り、味わいは極上のものだった。最後の最後は、アルバム冒頭でTOYONOの斬新さを印象づける重要な役割を担っていた、速いテンポと強いテンションノートの変則コーディングが新鮮な、正に21世紀の「イパネマの娘」。甘く、濃厚でスパイシーな、あまりにも贅沢な満ち足りた3時間だった。

 

愛を込めたブラジルスタイル

「ブラジルに渡り、肌や髪、瞳の色など、個の違いを互いにとてもリスペクトするからこそ、世界を魅了するブラジル文化が開花したのだと身をもって実感しました。物真似ではなく、日本人の私が発信するブラジル音楽でブラジルに恩返しをしたい。それが、私が歌を歌うきっかけとなったブラジル音楽への、私の愛を込めたブラジルスタイルです」とTOYONOは最後のMCで語った。彼女は、オリジナルのポルトガル語の歌詞を歌う為に、今でもライフワークのように詳細レベルの発音セオリーの研鑽をしているのだという。彼女の人生そのものともいえるブラジル音楽を、彼女なりのフィルターを通し、ポルトガル語で、時に日本語の響きにのせて、日本の音楽ファンに届ける。そんなTOYONO恩返しは、『黒髪のサンバ』という1枚のアルバムをきっかけに、これからも更に広がっていくことになるだろう。(ライター 手塚美和)

 

<セットリスト>

1-1 samba dobradoサンバ・ドブラード(Djavan)  

1-2 pellicano heavenペリカーノ・ヘヴン(TOYONO/竹中俊二)*TOYONO 3rdアルバム「ペリカーノ・ヘヴン」より

1-3 Desafinadoデサフィナード(Newton Mendonça/Tom Jobim) *TOYONO newアルバム「黒髪のサンバ」より

1-4 Popóポポー(Chico Pinheiro/ Aldir Blanc) 

1-5 mas que nada マシュ・ケ・ナダ(Jorge bem) *TOYONO newアルバム「黒髪のサンバ」より

1-6 Brasilian Colorsブラジリアン・カラース(TOYONO/伊藤陽一郎)*TOYONO newアルバム「黒髪のサンバ」より

1-7 Durango Kid ドゥランゴ・キッズ(Fernando Brant/Toninho Horta) 

 

 

2-1 água de beber おいしい水(Vinícius de Moraes/Tom Jobim)

2-2 君は1000% (有川正沙子/和泉常寛) *TOYONO newアルバム「黒髪のサンバ」より

2-3 Rock with you ロック・ウィズ・ユー(Rod Temperton)*TOYONO newアルバム「黒髪のサンバ」より

2-4 na boca do sol ナ・ボッカ・ド・ソウ(Vitor Martins/Arthur Verocai) 

2-5 サウヴァドール(TOYONO)*TOYONO newアルバム「黒髪のサンバ」より

2-6 funk cavaquinhoファンキ・カヴァキーニョ(TOYONO/竹中俊二)*TOYONO 3rdアルバム「ペリカーノ・ヘヴン」より

 

E-1 três-marias doisトレス・マリアス・ドイス(TOYONO/竹中俊二)*TOYONO newアルバム「黒髪のサンバ」より

E-2 gatota de ipanema イパネマの娘(Vinícius de Moraes/Tom Jobim)*TOYONO newアルバム「黒髪のサンバ」より

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photo : Kou Sawami(Crush on Crusher)
photo : Kumiko Sakiyama
TOYONO hair&make Nobuyoshi Ippongi
special thanks : Takashi Ito
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2024.03.19 Tuesday